風とファーシールとパウアとカイコウラ



星空を見ながら、ロープとペグを打ったのが3時頃だろうか。





吹きすさぶ強風の音が気になってしょうがないので、


ちり紙で耳栓を作り、


ぼんやりと、この時間までこんな風が吹いているようじゃ、


朝になっても、風止んでないだろうな、とか思いながら眠りに落ちたが、


明朝6時頃目を覚ますと、風が止んでいた。





う~ん。まだ、このニュージーランドの気象の目まぐるしさについていけないな…。





テントから首を出すと、牧場の端の方で、野うさぎが数匹ピョコタンピョコタンと跳ねていた。





風は無いが、やっぱり国道までの1㎞強の砂利道は面倒である。


舗装してくれないかなあ。





そう、ニュージーランドのアスファルト舗装であるが、


すごい大雑把と言うか荒い。





自転車が走るべき道の端、路側帯の辺りは、


ほとんど舗装と言うより砂利が押し固められたようになっていて、


本当走り辛いし、タイヤの減りも早そうな気がする。


その上、市街地に近いと、


ガラス瓶を走行中の車内から捨てるらしく、


ガラスの破片が散乱している。





ニュージーランドを自転車で走るなら、


ケブラーかなんか使っている丈夫なタイヤがお勧めである。





ニュージーランド カイコウラ方面を望む





今日は、海岸線を行くため、比較的アップダウンも無く、


楽に行けるかなあ、もしかしたらカイコウラまでいけるかも、


なんて目論見はあっさり覆って、


若干の向かい風の中ヨタヨタしながら、


カイコウラから40㎞程手前のキャンプ場に泊まる。





このキャンプ場、一人$10と安めだが、


シャワーは有料だし、キャンピングカーが基本らしく、


水場は、蛇口がぽつんと立っているだけで、炊事棟なんてものは無し。


国道と鉄道がすぐ横を通っているので、何か通る度にうるさい。


現状がわかると$10が高く感じてしまう。





テントを、さっさと張ってしまった僕らは、海岸に出てみた。





カイコウラ周辺では、パウア貝(アワビ)が獲れるという情報を得ていたので、


ほど近いここらでも獲れるだろうと踏んでである。





幸いすぐ近くに磯場があった。


だが、いまいちの天気で気温も上がらず、


水に入るのがためらわれたので、


磯場をじろじろ見て回る。





「フグワァ!!!!」


「うわぁゎゎ!ΣΣ(゚д゚lll)」





突然の声に、驚愕。


砂浜に何か大型犬くらいの大きさの生き物がいた。





驚きながらも、それがすぐに何者かがわかった。


オットセイの仲間、"ファーシール"である。





彼女(大きさから推測するとメスだと思う)の傍に近づきすぎた上、


海への退路を断ってしまう位置に僕らがいたので、威嚇したのである。





あー、驚いた、と呟きながら、


動かず彼女の方を見つめていると、


一瞬海に帰ろうとしていた彼女であったが、


僕らに敵意が無いのを察したらしく、


元いた場所に戻るとコテンと寝てしまった。





こうやって存在がわかってから見ればわかるが、


彼女の寝姿は、保護色なのか、そこらの漂流物とさして変わらなく見える。





しかし、呑気な奴である。


敵意が無いのがわかると、


近づいてはいけないとされる10m以内だろうが、


退路を断たれようが、気にしていない様子。





寒い上に雨も降り始めたので、


どこにいるかよくわからないパウアは諦め、


既に岩にへばりついているアオガイを引っぺがす。


しかし、こいつも日本にいる奴より遥かにでかい。


強力に引っ付いていて、無理やり剥がすと下の岩まで剥がれた。





数個獲り、先ほどのファーシールの横を一声かけて通り、


キャンプ場に戻る途中に、誰かが焼いて食べたらしいパウアの殻が捨てられていた。


「すげー!」


それのどれもが10㎝以上はある。


(規定のサイズが125㎜以上なので当たり前なのだが)


あまり食べないとは聞いていたが、食べる人は食べるようだ。





今日何も食料を補給できなかったこともあり、


メインの晩御飯はインスタントヌードルだけだが、


アオガイを醤油をかけてフライパンで焼く。


アワビに比べると悲しくなりそうだが、


魚介類の好きな相方は、結構喜んでくれたので良かった。





ニュージーランド ファーシール





 翌朝雨は止んだものの、


ファーシールのコロニーを横目に見ながら、


向かい風を感じつつ進む。





今日は、30㎞くらいだけ、と頭の中で何度も言い聞かせるが、


一向にカイコウラが近づいてこない。





それに昨日で、休憩中つまんでいた行動食が底をついていた。


朝もスナックパスタという軽食を摂っただけ。





お昼をするのに適当そうな場所をだらだら探しながら進んでいると、


徐々に体が辛くなり、足が動かなくなった。





(ハンガーノックか…。)





蓄積された疲労のせいも多分にあると思うが、


状況からするとそう考えるのが妥当に思えた。





道端で立ち止まり、相方が持っている非常食"落花生飴"を二つもらう。


これともう一つ入っている金平糖は、


北海道ツーリング中、道端で相方がパンク修理していた時に、


地元のおばあちゃんからもらった物だ。





それを舐めると言うより、咬みしだいて飲み込んだ。


あまり落花生飴は、好きではないのだが、


おかげで元気が出た。





しかし、再び進みだすも、


まだエネルギーが足りないらしく、


今度は金平糖を口の中いっぱいにほおばりたいという、衝動に駆られた。





さっきの場所から、1㎞程進んだところで再び止まり、


とうとう砂糖の塊を口の中いっぱいにほおばった。





今度はそれなりのエネルギー量である。


場所的には、カイコウラの郊外と言っても良いエリアにいるので、


あとひと踏ん張りだ。





どうにかカイコウラまで着いた僕らは、


早速宿を探す。





目星を付けていたバックパッカーズ2件は、ベッド無し。


その次に行ったところも、高い方のダブルルームしかないとのこと。





悩んだ僕らの目に留まったのが、日本で言うところのオートキャンプ場。


どうもこういうところは、日本での感覚(日本でオートキャンプ場というと、


一区画数千円取るのが普通で、我々の様なのが泊まる所ではない)が先に立ち、


聞きに行くのでさえ、なんだか躊躇してしまう。





「一人$14です。」


受付のおねーさんは、そう言った。





昨日のこともあるので、ちゃんとキッチンと無料シャワーがあるのを確認し、


外で待たせている相方と相談してここに決めた。





テントをさっさと張ると、


目の前にある、SUBWAYで遅い昼食を摂った。





 いつも参考にさせて頂いているサイトの情報によれば、


カイコウラには、大きなスーパーが無いとのことだったが、


どうやら新しくNEW WORLDができたらしく、


そこへ昼食後買い物にでかけた。





そこで僕らは愚かな行動を取ってしまう。


缶詰を買ってしまったのだ。





それのどこが愚かかと言うと、


実は、ペダラーズレストにビクトリノックスのナイフを置いてきてしまったらしく、


他に缶詰を開ける道具を持っていなかったのだ。





昔は、ビクトリノックスの缶切りは日本の通常の缶切りと違い、


押し切りなので、シェルパ斉藤氏をまねて、


ドッグタグタイプの缶切りも持ち歩いていたのだが、


今時の日本の缶詰のほとんどが缶切り不要になってきてしまっているのもあって、


この頃は全然持ち歩いていなかった。





缶切りを無くしたことも、


ニュージーランドでは、缶切りが必要な缶詰が多いことも失念して、


缶詰を買ってしまったアホなうちら。





これがまた、通常宿泊しているバックパッカーズなら、


調理器具系はほとんど揃っているので問題無いのだが、


キャンプ場だとキッチンはあっても、


そういった物はまず置いていない。





結局その缶詰は、カイコウラで開けられることはなかった…。





さて、翌日は、


意外に消耗するニュージーランド自転車ツーリングでは、


��~4日(うちらは2~3日にしようかなんて言っていたが)


に一回休みを入れた方が良い、


なんてアドバイスがとあるサイトであったのもあり、休養日。





昨日と同じく、気温が低く、いまいち天気も良くないが、


パウアを探しに出かける。





途中、BBHには加盟していないバックパッカーズで、


一人$12でテントを張れるところ見つけた。





うーん。こっちだったら缶詰開けられたのに…。


今いるところのほうが施設が新しくて大きいんだけれども。





isite(インフォメーションセンター)なんかで寄り道しながら、


磯場を探して海沿いを行く。





町外れの方ではあるが、まだまだ宿などが立ち並ぶ通り沿いに磯場を発見。


この寒いのに子供達が遊んでいる。





期待は薄いが、磯場に下りて、嫌々水に入りつつ、石をひっくり返す。





いない…。





ま、そうだろうな、と次の石をひっくり返すもいない。





大体、日本でアワビがいるところなんて見たこと無いし、


獲ったことも(漁業権無いのが獲っちゃだめだけど)無いんだから、


どんなところにいるのか、本当にこんなところで獲れるのか怪しくて仕方が無い。





半ば諦め気味で、少し大きめの石をやけ気味に力を込めてひっくり返す。





いた!!!





しかも、5~6枚。


ひっくり返すと同時に、明るいのが嫌いらしく、


暗いところへ逃げようとする。


その意外な速さに驚きつつも、逃げ出した奴をとっ捕まえる。





 カイコウラ パウア(アワビ)





小さい奴を獲らずに、


僅か20分ほどで大漁である。





フィッシャーマンルールの規定の数量なんて獲れるのかいな?、


なんて疑問に思っていたが、このまま獲り続ければ、


簡単にその数量に届いてしまうだろう。





別に一日の二人分の量が獲れれば十分なので(寒いし)、


とっとと海から上がると、キャンプ場に戻った。





しかし、アワビなんて捌いたこと無い。


まー、適当にやるかってんで、


刺身と踊り焼き(?)を夕食に作って食べた。





翌日は、晴れ。


出発を延ばし、今日も休養日。





カイコウラ





昨日行かなかった、ファーシールのコロニーがあるという、


岬の方まで行くことにする。





岬の着くと、駐車場で人だかりがしている。


見に行くと、真ん中にある植え込みでファーシールが昼寝していた。





ファーシール カイコウラ





カイコウラまでの道のりで見たコロニーほどじゃないにしろ、


ファーシールを間近に見ることができる。





カイコウラ ファーシール





(´-`).。oO(そんなんだから、乱獲されちゃうんだよ・・・)





帰り道、また昨日の場所で、3枚パウアを獲り、


キャンプ場に戻る。





カイコウラ キャンプ場





ネットで、アワビの捌き方を検索してみたが、商業サイトばかり。


当たり前か…。


一応、捌き方はわかった。


大体、昨日のやり方で間違っていなかったようだ。





さあ、明日から目指すは、クライストチャーチ。


旅の前半のハイライトの一つになるはずだ。





カイコウラから、山側ルートと海側ルート二つに分かれて、


クライストチャーチに辿り着くが、


まだ、どちらで行くか、僕らは、決めかねていた。





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